オフェンシヴ・リアリズム(前編)

vassal_hiroです。
最近、キーボードのタイプミスがやたら多くなってきたような気がします。1月ごろは割かし速くタイプできていたような気が。トレーニングせなあかんのかなー、と思う今日この頃です。


さてさて、前回まではディフェンシヴ・リアリズムについて書きましたので、今回はオフェンシヴ・リアリズム(offensive realism:攻撃的現実主義)について触れようと思います。本日はオフェンシヴ・リアリズム(前編)ということで、理論の呼称、前提、理論の帰結などを書く予定です。では本編へ。


まず、オフェンシヴ・リアリズムを初めて明確な形で体系化したのはジョン・J・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)です。なぜかはてなのキーワードにも登録されており、割かし有名な教授(?)です。オフェンシ・ヴリアリズムは、ディフェンシヴ・リアリズムやネオクラシカル・リアリズムとは異なり、はじめから理論の呼称、前提条件、そして分析の方法が明確な形で現れています。

The Tragedy of Great Power Politics

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大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!

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では、具体的な理論の解説に入ります。ミアシャイマーの理論は5つの前提条件(仮定、あるいは想定)から構成されてます。

1. 国際システムはアナーキーである
2. 大国はある程度攻撃的な軍事力を持っている
3. 相手の意図を完全に知ることが出来ない
4. 大国の最大の目標は生き残りである
5. 大国は合理的な行動をする

これらの前提条件が組み合わさると、相手国を完全に信用できないだけでなく、侵略される可能性があるため、大国が互いに抱く恐怖は高まります。また、国際システムのアナーキーの下で、国家は生き残りを求めるため、国際システムは自助の原則が働くことになります。さらに、国家は互いの意図が不透明なので、国際システムの中で最強になることが国家の生き残りを保障すると考えるようになります。よって、ミアシャイマーによると、国家は結果的に力を最大限求めざるを得ないのである、ということです。

以上の前提条件から、国家は覇権国(hegemony)になることを求めようとします。ここでいう覇権国とは、国際システムにおける全ての国家を支配できるほどの力を持った国家のことです。ミアシャイマーの定義によると、覇権国という概念は2つに分けられます。つまり、全世界を支配できるグローバル覇権国(global hegemony)と地域覇権国(regional hegemony)の2つの分類があるようです。しかしながら、ミアシャイマーの論理によると、国家がグローバル覇権を目指すことは現実的に不可能だということになります。何故なら全世界の国家に対して核の優越状態を達成することがありえないだけでなく、海という地理的な障害物によって兵力投射能力が弱められてしまうからです。したがって、ミアシャイマーは、国家にとって都合が良い(生き残りを達成する)のは地域覇権国を目指すことである、と主張しています。

注意深い方はお気づきかもしれませんが、ケネス・ウォルツ(Kenneth N. Waltz)の理論とミアシャイマーの理論では、それぞれの理論における前提条件が若干異なります。ウォルツのネオリアリズムの理論には、前提として国際システムのアナーキーと自国の生き残りが設定されており、その結果として国家は現状維持を図ることになる。一方、ミアシャイマーの理論では、攻撃的能力、相手の意図の不透明さ、合理性の3つをウォルツの前提に加えています。そして、これらの前提条件が組み合わさることで、大国は結果的に攻撃的にならざるを得ない、とミアシャイマーは主張していると言う点が、ネオリアリズム、ディフェンシヴ・リアリズムとの違いを生み出しているところです。

注意していただきたい点は、ミアシャイマー自身が認めているように、国家は常に攻撃的であり他国とは非協力的であるとは主張していない、ということです。しかしながら、ミアシャイマーはそれでも国家間で協力が難しいことを2つの理由から説明しています。

1. 国家は相手国とのバランスオブパワーを常に考えているため、相対利得の問題が生じるから。このため、相手と自国との間で「パイの奪い合い」が発生し、協力が難しくなる。

2. 相手との協力に乗ることで自国がだまされてしまうことを国家が恐れるから。国家がどれほど協力しようとも、国家から安全保障の論理を完全に取り除くことは出来ない

この様に、ミアシャイマーの理論は国際システムで国家の行動を説明しようとするものであり、ウォルツが指摘した第三イメージで国際政治の説明を試みる理論ということになります。つまり、ミアシャイマーの理論は、ハンス・モーゲンソーらクラシカル・リアリストたちとは異なり、国家には攻撃性が内在しているのではなく、国際システムがアナーキーであることによって、国家は攻撃的にならざるを得ないのである、ということです。


次回はオフェンシヴ・リアリズムの評価について書こうと思います。
では。