ネオリアリズム2

ご無沙汰してました、vassal_hiroです。
先週には実家から帰ってきてはいたのですが、何かと忙しくしてました。
国際関係論シリーズ(?)も漸く再開します。


前回まではネオリアリズムの特徴について論じました。
一行でネオリアリズムについて書くなら、
ネオリアリズムとは国家の相対的パワーの大小で国際政治を説明する理論であるといえます。
ネオリアリズムによって社会科学としてのリアリズムが復活したわけですが、
全く問題が無かったとはいえません。今回は(ウォルツのネオリアリズムの欠点について書きます。


ウォルツのネオリアリズムが孕んでいる第一の問題点は、バランス・オブ・パワー(BOP)が
現実の国際政治と乖離していることです。
つまり、ウォルツのいう能力に対するバランシングを国家が(自然に)とるのであれば、例えば
冷戦期の日本は何故ロシアではなくアメリカと同盟を組んでいたのか説明が付かないということです。
ウォルツ自身の主張によると、バランス・オブ・パワーの理論は一般理論であり、特定の国が特定の時期に
バランシング行動を起こすことを説明するものではないようです。
とはいえ、やはりウォルツのバランス・オブ・パワーでは説明できていないことには変わりはないのです。


理論上のバランス・オブ・パワーと現実の国家間関係が完全一致しない点について、ウォルツの弟子である
ティーヴン・ウォルト(Stephen M. Walt;ウォルツとウォルトで名前が紛らわしいので注意・・・?)は、

国家はパワーに対してバランシングするのではなく、脅威に対してバランシングするのである

と主張し、バランス・オブ・パワーならぬバランス・オブ・スレット(balance of threat;脅威の均衡)という概念を
提唱しています。

The Origins of Alliances (Cornell Studies in Security Affairs)

The Origins of Alliances (Cornell Studies in Security Affairs)

ウォルトによると、脅威に影響を与える要素は4つ存在するようで、

1. パワー(aggregate power) ←ウォルツのBOP
2. 近接性(proximity)
3. 攻撃的能力(offensive capability)
4. 攻撃的意図(offensive intentions)

だそうです 。ウォルトの理論は、ウォルツが主張する能力の分布に加え、地理的な近さや保有する
兵器の性質、相手国の意図を元に分析するわけです。つまり、ウォルトは国際システムの分析だけではなく、
変数を増やすことで現実の国際政治に対する説明範囲を広げたのである。


第二の問題点は、ウォルツのアナーキー観です。ウォルツはアナーキーによる自助システムでは国家間の
協力が難しいことを主張しています。しかし、ロバート・ジャーヴィス(Robert Jervis)は
セキュリティ・ジレンマ(security dilemma)の下でも国家間の協力の可能性を指摘しています。
ジャーヴィスによると、攻撃・防御バランス(offense-defense balance)、技術と地理、攻撃と防御の区別の変数を
考慮することによって、安全保障を高めることができるようです。また、ジャーヴィスは政策決定者は自らの認識する
脆弱性の観点から行動すること、つまり政策決定者の脅威認識を考慮する必要があることを指摘しています 。

Perception and Misperception in International Politics (Center for International Affairs, Harvard University)

Perception and Misperception in International Politics (Center for International Affairs, Harvard University)

ウォルツは国際システムを中心に理論を構築する際に個人の変数を理論から排除しましたが、
ジャーヴィスは個人を分析の対象として考慮に入れることを提案しているのです。


同様に、昨今注目をあつめつつある(?)ネオクラシカル・リアリズムの主要な論者の一人、
ランドール・シュウェラー(Randall L. Schweller)は、ネオリアリズムのように国際システムの
要因だけでは国家の対外政策が説明できないと主張しています。何故なら、国際システムが対外政策へと
変換される過程において国内の媒介変数が存在するからです 。シュウェラーによると、国内の媒介変数は
4つあるようで、

1. エリートのコンセンサス
2. 第二に政府あるいは体制の脆弱性
3. 社会の結束力
4. エリートの結束力

だそうです。つまり、シュウェラーは、
ウォルツのネオリアリズムに対して国内政治の要素を追加することで、理論の修正を行なっている
のです。

Unanswered Threats: Political Constraints on the Balance of Power (Princeton Studies in International History and Politics)

Unanswered Threats: Political Constraints on the Balance of Power (Princeton Studies in International History and Politics)


さらに、ウォルツの理論に関する第三の問題点は、理論を設計する際のウォルツの前提条件(仮定)が
現実とそぐわないと考えられることです。つまり、ウォルツは、国家は少なくとも生き残り、究極的には
全世界の独占を目指すと仮定しているものの、国家は現状維持を目的とすると主張しています 。
しかしながら、国家がシステムの現状維持ではなく、システムの中で自己の利益拡大のために行動したと
考えられるケースが存在します。(例えばアメリカの西海岸への拡張など)このため、シュウェラーの言葉を
借りるなら、ウォルツのネオリアリズムは「現状維持(status-quo)に偏っている」のです 。

Deadly Imbalances: Tripolarity and Hitler's Strategy of World Conquest

Deadly Imbalances: Tripolarity and Hitler's Strategy of World Conquest

ジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)もウォルツの理論の仮定を修正し、
結果的に大国は地域的な覇権を求めざるを得ないことを指摘しています。
大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!

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The Tragedy of Great Power Politics

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要するに、国家の現状維持はありえないのですよ。


とここまで、(ウォルツの)ネオリアリズムについて叩いてきたわけですが、次回はネオリアリズム
評価について書きます。ではでは