ディフェンシヴ・リアリズム(前編)

vassal_hiroです。
どうも週末のうち、土曜日はぐうたら生活をしてしまいます。
一方、日曜日は週明けの準備や部屋の掃除などに費やす傾向があるようです。


前回までは、ネオリアリズムの派生とその分類に関することについて書きました。今回はその一部であるディフェンシヴ・リアリズム(Difensive Realism)について書こうと思います。


リアリズムを最初に攻撃的(aggressive)なリアリズムと防御的(defensive)なリアリズムに区別できることを指摘したのはジャック・スナイダーです。スナイダーによると、

2つのリアリズムはともに国際的なアナーキーが安全保障を獲得する動機になっていることでは同じであるが、安全保障を達成するための効果的な手段に関して、反対の捉え方をする

ようです。

Myths of Empire: Domestic Politics and International Ambition (Cornell Studies in Security Affairs)

Myths of Empire: Domestic Politics and International Ambition (Cornell Studies in Security Affairs)


それでは、具体的にディフェンシヴ・リアリズムとはナンなのか、ということです。ディフェンシヴ・リアリストとして見なされているロバート・ジャーヴィスは、自助システムの下でも国家間の協力が可能であると指摘しています。つまり、ディフェンシヴリアリズムは国際協力に対してケネス・ウォルツよりも楽観的な視点をもつ国際関係理論を提示しています。また、チャールズ・グレイサー(Charles L. Glaser)は、構造を重視するネオリアリストたちは国家間の協力のリスクを過大視しすぎていることを指摘しています。つまり、ディフェンシヴ・リアリストにとって、国際システムは穏健だということですね。

Perils of Anarchy: Contemporary Realism and International Security (International Security Readers)

Perils of Anarchy: Contemporary Realism and International Security (International Security Readers)


また、国際システムの分析に関して、ジャーヴィスは、攻撃・防御バランス、技術と地理、攻撃と防御の区別の変数をネオリアリズムの国際システムの分析に加えています。同様に、ティーヴン・ウォルトも地理や攻撃的能力などの変数をシステム分析に加えウォルツの主張する能力分布だけで国際システムを捉えてはいません

Causes of War: Power and the Roots of Conflict (Cornell Studies in Security Affairs)

Causes of War: Power and the Roots of Conflict (Cornell Studies in Security Affairs)


さらに、ディフェンシヴ・リアリストたちは、セキュリティー・ジレンマの問題を重視する傾向があります。例えば、スナイダーによると、国家が安全保障を得るために対外的に権力を過剰に拡大することは他国の安全保障を脅かしバランシング行動を引き起こすといってます。このため、スナイダーは、セキュリティー・ジレンマの観点から、過剰拡大は結果的に自己包囲(self-encirclement)を招いてしまうため、安全保障を獲得するための方法として合理的でないと主張しています。つまり、(ディフェンシヴ・リアリストたちの考える)国際システムのダイナミズムを合理的に判断するならば、過剰拡大は起こらないはずです。
しかしながら、ヒトラーのドイツや戦前の日本のような過剰拡大を行ったケースは存在します。スナイダーによると、これらの過剰拡大は国内政治によって引き起こされるようです。つまり、拡大を主張する国内の集団が連合化(cartelize)することが、国家に対外的な拡大を選択させるということです。要するに、一部の利益集団が徒党を組むことで、国内政治で強い発言力を獲得し、国家の対外政策の選択が操作するようになるということですね。さらに、ジャーヴィスは政策決定者の脅威認識を考慮する必要があると指摘しており、国際システムや国内政治だけでなく、政策決定者の認識の問題まで分析することを提案しています。よって、ディフェンシヴ・リアリズムは国際システム分析だけではなく、国内政治のダイナミズムも分析の射程に含めています。このため、国際システムの構造で説明出来ない事例に対して、ディフェンシヴリアリズムは説明することが可能になったということです。

Myths of Empire: Domestic Politics and International Ambition (Cornell Studies in Security Affairs)

Myths of Empire: Domestic Politics and International Ambition (Cornell Studies in Security Affairs)


以上の事から、ディフェンシヴ・リアリストたちは、対外政策の行動の相違を説明するために、システムと国内政治の独立変数を並列に用いていることがわかります。つまり、ディフェンシヴ・リアリズムの論理はシステムと国内政治の独立変数を並列に扱い、システムから分析するものと国内政治あるいは個人の認識から分析するの両方が存在することです。これにより、ネオリアリズムで説明することのできなかった、特定の国家の対外政策を説明することが出来るようになったのです。


と、一見べた褒めのように見えますが、ディフェンシヴ・リアリズムにも欠陥があります。
次回はその欠点について書こうと思います。