ネオクラシカル・リアリズム4

vassal_hiroです。
いつもなら既に就寝している時間なんですが、土曜日はどうも廃退的な生活になってます(汗)本日は平日どおり5時半におきて、二度寝ならぬ三度寝をやらかして、午後からはぱらぱらとコーディング(というよりもコンストラクションの)本をめくってただけです。

CODE COMPLETE 第2版 上 完全なプログラミングを目指して

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この本上下巻で1,000ページオーバー、お値段も12,000円オーバーでして、割かし痛い出費です。他にも色々と買う予定の本が山積みで、私の支出は衰える気配がありませんw



と、やたら生活臭のある(?)雑談はさておき、ネオクラシカル・リアリズムですよ!!!!!こんなの、一体誰が読むんだ、と思っている方は確実にいらっしゃるでしょうが、おっちゃんのたわごとだと思って温かい眼で見守っててください(汗

さて、前回までの議論で、ネオクラシカル・リアリズムは独立変数として国際システム(ウォルツでいうところの第三イメージ論)を、媒介変数として国内政治(第二イメージ論)あるいは政策決定者(第一イメージ論)の変数を使用していることを明らかにしてきました。となると、では具体的に国際システムをどう分析しているのか、国内政治や個人をどう分析に落とし込んでいるのか問題にあがってきます。そこで、今回は、ネオクラシカル・リアリストにとっての国際システムとは何か、国際システムをどう分析しているのかについて書こうかと思います。前フリが長いな…w


国際システムの変数として代表的なものは、ウォルツのネオリアリズムと同様に国際システムにおける国家のパワー分布ですね。具体的に誰の議論が該当するかというと、シュウェラーやクリストファー・レイン(Christopher Layne)なんかがその例に当てはまります。彼らは、ネオリアリズムと同様にパワー分布を独立変数として理論を構築しています。一方で、クリステンセンの理論の独立変数は、安全保障を獲得するために国家の力(resource)の動員を必要とする国際的難問(international challenge)です。国際的難問とは、国際システムにおいて国家が他国から受ける脅威を意味するようです(challengeは挑戦と訳してもいいんですが、しっくりこないのであえて難問としてます)。このように、ネオクラシカル・リアリストたちの間で変数の設定が厳密には異なるのですよ。よって、ネオクラシカル・リアリストたちの理論を扱う際には注意する必要だといえますね。それでは、ネオクラシカル・リアリズムの理論における具体的な独立変数を具体的に見ていきましょう。


例えば、シュウェラーは第二次世界大戦のドイツの開戦に関して、まずシステムの観点から分析を行ない、それに加えてヒトラー個人に焦点を当てて説明を試みています。システム分析(大国の相対的な能力の計算)に当たって、シュエラーは「戦争の相関因子(Correlation of War; COW)プロジェクト」のデータを使用しています。COWの能力の計算は、軍事力、工業力、そして人口の3つの要素から求められるようです。シュウェラーは、求められた大国の能力を0.00から5.00までの数値に変換し比較することで、国家間の相対的なパワー分布を計算しています。そして、シュウェラーは、第二次世界大戦のヨーロッパはドイツ、ソ連、イギリス・フランスの三極構造であっため、不安定であったと主張している。

Deadly Imbalances: Tripolarity and Hitler's Strategy of World Conquest

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また、レインも1940年代以降のアメリカの大戦略はディフェンシヴ・リアリズムやオフェンシヴ・リアリズムで説明できないと主張しています。レインは、この問題を解決するに当たって、ネオクラシカル・リアリズムのアプローチを採用しています。レインによると、アメリカの域外覇権(extraregional hegemony)の追求は、国際システムにおけるパワー分布と国内の媒介変数との間でのリンケージによって引き起こされるようです。何言っているのか分けわからないようですが、ようするにアメリカの域外覇権の追求は、国際政治のシステムにおけるパワー分布と、アメリカの経済的な膨張、そしてイデオロギー(門戸開放)の3つの変数で説明でき、これらの変数は相関関係にあるってことです。レインは、アメリカの大戦略を説明する理論の独立変数として、国際システムのパワー分布を使用しています。ただし、レインは、アメリカの域外覇権の追求は基本的に国内要因によって決定されているが、アメリカがこの戦略で成功を収めるための条件として国際システムに関する3つのの要因があることを指摘しています。第一に、国際システムにおけるその他の主要国に対して、圧倒的な相対的パワーの優位が必要だということです。第二に、増大するパワーは大抵の場合強力な敵対者に直面しない地域で拡大するため、アメリカとヨーロッパとの間のパワー分布は決定的にアメリカ優位の方向へ傾いているということです。そして第三の前提条件は、西半球におけるアメリカの地域覇権ということです。このため、あくまでレインの理論では国際システムのパワー分布が理論の出発点となっています。ただし、レインはネオリアリストやオフェンシヴ・リアリスト、ディフェンシヴ・リアリストと異なり、政策決定者が如何にしてアメリカの国益を理解し、そしてそれらの国益に対してどのような脅威を認識していたかという変数を導入してます。そして、相対的パワー分布上ではアメリカは脅威に晒されていないにも拘らずアメリカの価値観が脅威を受けていると認識した結果、アメリカは域外覇権を求めると主張している。
The Peace of Illusions: American Grand Strategy from 1940 to the Present (Cornell Studies in Security Affairs)

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さらに、ウォルフォースは、パワーは完全に捉えがたい概念であることを指摘しています。そしてウォルフォースは、物質的なバランス・オブ・パワーやパワー分布と、政策決定者が認識するそれらは完全に一致しないことを主張している 。さらに、パワー分布を基礎においた理論では、システムにおける極の数はパワーを如何にして計算するかによって変化します。つまり、ネオリアリズムのように厳密な理論で使用されるパワー自身が、捉えどころの無い概念なのである、と喝破してます。ウォルフォースの論理では、独立変数がバランスオブパワーを導くパワー分布であり、それを歪めてしまう媒介変数が政策決定者の認識であるということですね。
The Elusive Balance: Power and Perceptions During the Cold War (Cornell Studies in Security Affairs)

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一方で、クリステンセンは理論のモデルを構築するにあたって国際システムのパワー分布を直に独立変数に設定していません。クリステンセンの国内動員モデル(domestic mobilization model)は、国家が直面する国際的難問と、それに対応するための戦略が従属変数、そしてこれらを結びつける重要な媒介変数から構成され、国家が社会に対して動員を働きかける能力を扱うモデルです。このモデルでは、エリートが選択する政策は媒介変数の値によって決定される。動員に対する政治的な障害(political hurdles)が比較的低い場合、国家をブラックボックスとして扱うリアリストと同一の政策が採用されます。クリステンセンのモデルの場合は、国際政治的な環境が独立変数であるといえますね。


次回はネオクラシカル・リアリズムと国内政治・個人について書こうと思います。
ではでは。